◼︎ コトノハ ◼︎

本と芝居とラジオの日々 / all rights reserved

他から移転:夢か幻か

 夜9時に仕事が終わるから飲もうよ、後輩Kのそんな呼びかけを受けて、昔よく飲んだS街で待ち合わせ。ところが9時を過ぎても彼女は現れない。9時50分になってようやく携帯が鳴る。
 「今仕事が終わったところ」
 よっぽど帰ろうかと思ったが、なんとか踏みとどまって、10時45分、差しの飲み会がはじまった。

 彼女とは、学生の頃からの「犬猿の仲」。私がいれば彼女が呼ばれず、彼女がいれば私が呼ばれないような、まわりも気を使う仲なのだが、突然彼女からのメールで飲み会が実現した。というのも、表面的にはともかく、まわりが騒ぐほど犬猿の仲でもないので。

 しかしあってみて驚いたのは、会うのは5年ぶり、ましてやじっくり話し合うのは、10年ぶり、という私たち。その間、私は2回転職し、彼女も、学校を卒業し、就職し、退職し、その間に2つの資格を取り、現在夜学で将来やりたい仕事のための資格を得る専門学校に通い…、と、なかなかいろいろあった様子。以前に彼女に会った時は、学生時代の友達といい仲で、結婚を真剣に考えていたようだったが、それに破れて以降、あまりいいことがない様子。そう、わたしと会いたくなる人は、いつも何かが上手く行ってない人ばかり。それをいやされることを期待して、いやされると私の元を去っていく。その繰返し。

 飲み会は、後輩Kの愚痴のオンパレード。気がつけば午前2時で終電もなく、タクシーの行列へ。朝まで並んでも乗れなそうな大行列の仲、べろべろによった彼女がしなだれてきて重い。と言っても、色っぽい気持ちもなく、支えるのに精いっぱいで時間ばかりが過ぎていく。明日は仕事。とっとと送って帰りたい・・・。偶然もちあわせた無線タクシーの連絡先に携帯で電話をして優先的に乗れたけれど、それがなかったら、朝まで並んでいたのでは。行列は永遠に続いていた。

 彼女の家まで送ろうかと思ったら、「ここでいい」と最寄り駅で下りられた。別にあがりこんでエッチする気も無いのに、つれない返事。心配した甲斐がないと、これならS街で放り出して帰れば良かったと思いながら、とりあえず最寄りの駅前で下ろして、今度は自宅へとタクシーを走らせる。家についたのは4時。うすら明るくなるなかで、ようやく布団に入る私が思ったのは、「今日も徹夜か・・・」。徹夜に備えて早く寝ようと思うのだが、中途半端な酔いで、なかなか眠れない・・・。

 Kは孤独なのだ。資格を取り、いつか独立したい、そう思いながら、すでに30を超えた今の年齢を思い、また、体から受けるプレッシャーを思い、勇気を持って夢に向かえなくなっているのだ。

 しかし夢ってなんだ?仕事で自己実現をすることばかりが夢だとは思わない。毎日、朝ご飯を作って、掃除洗濯をして、夕飯を作って、そんな毎日の中に、幸せがあってもいいし、彼女もかつては、そういう幸せを求めたはず。それでもいいのではないか。彼女が今、そういう幸せを求めないのは、考え抜いた結果ではなく、今、誰かがいないからではないか。そう思うと、その夢も怪しい物のように思えて、先が心配になった。