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『現実入門』穂村弘

 穂村弘を知ったのは、もうずいぶん前。「シンジケート」でデビューした頃だから、もう15年も前のこと。その時の印象は、一言で言えば「最悪」だった。
 当時、短歌が変わりつつある頃だったので、色々な歌人に目を配っていたのだが、穂村弘の短歌は、ほかの誰と比べても、少しも新しく感じられず、また面白くもなかった。確かにそれまでの短歌とは違っていたが、それまでの短歌を壊すような迫力はなく、また今を生々しく切り取るような鮮烈さもなかった。では何だったのかと言われると、表現するのが難しい。言葉遣いは今の人の感覚という、手あかにまみれた手法を用い、現代人の夢想や幻惑を描いては未熟、戸惑いを描いては未熟、そう、「未熟」という表現がぴったりなものだった。

 そんなわけで、穂村弘の本になど全く興味を示さなかった私だったが、去年、ある雑誌に彼がエッセイを書いているのを読んで、ちょっと印象が変わった。なんなんだこの情けない男は!そうか、これが、彼のネタだったか・・・

 この本は、「現実」を恐れ、逃げ続けていた男が、雑誌の企画に乗せられて、42歳にしてさまざまな「現実」に挑戦するという、おどおど、きょろきょろ、どきどき、のエッセイ集。もちろんおどおどするような未熟さは(たぶん)ネタで、それだけだと読んでいて白けてしまうのだが、その態度の中に「くだらない成熟などいらない」というささやかな主張が見え隠れするので、そこそこ楽しんで読めた。そこそこ、だが。

 なお、この本、ラストに驚きの展開があってまた面白いのだが、なんとそれが腰巻きでネタバレしていて非常に残念。編集者のセンスを疑いたくなった。